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ふがいない僕は空を見た【本の感想】

 

 

本の紹介

著者:窪美澄

新潮文庫

刊行:2010年7月

女による女のためのR18文学賞大賞を受賞した「ミクマリ」を含む5編からなる連作長編作品。

 

本の感想

書を手に取ったきっかけは窪美澄先生の作品をもっと読んでみたいという簡単な理由からだった。読み始めて数ページで心をグッと掴まれたような感覚が襲ってきた。「ミクマリ」から始まる連作長編だが、各編の主人公の持っている心の暗い部分を、物語の中で独特の言い回しを使わずにストレートに書く窪美澄先生の作風が私は好きなんだと思う。本書のタイトルにもなっている「ふがいない」という言葉は「いくじがない」というマイナスのイメージを持っている言葉だ。しかしこのタイトルに妙に惹かれてしまうのはなぜだろうか。

 

書を読み進めていくと「性」について深く考えさせられる場面が多く登場する。読み手によっては違う部分に焦点を置いて読むかもしれないが、私はどうしても「性」や「男女」「体の関係」などのR18な部分を深く考えさせられた。

「線を引くのは難しいよ。性欲とか、恋愛の境目をきちんと分けるのは。別に分ける必要もないんだから、なんて割り切って思えるようになればいいんだけど」

引用:ふがいない僕は空を見た(新潮文庫)

2035年オーガズム 144頁

このセリフを読んで、確かに恋愛の果てにあるものが性欲ではないし、性欲が溢れてきたからこの人が好きなんだ、ということでもない。しかしこの1部分だけでも意見が分かれるのがこの世の中だと思う。恋愛🟰性行為なんだよ!という人もいれば、好きとセックスは別物だからと主張する人もいるだろう。

 

語も終盤に入り少しずつ話がまとまって行く。最後の1編のサブタイトルを見て「確かに動物も植物も同じだな」と思ってしまった。何も違わないのだ、行き着く先は子孫繁栄だし結局のところ同じなのだと思う。中盤で今までの恋愛や性事情を受け入れるような言葉が出てきた。

「ばかな恋愛したことない人なんて、この世にいるんすかねー」

引用:ふがいない僕は空を見た(新潮文庫)  

花粉・受粉 272頁

決して否定するわけでもなく肯定するわけでもないこのセリフ。しかしこれに救われる人はたくさんいるであろう言葉。私自身今思えば、ばかだったなと思うような恋愛をしたこともある。周りには否定する人しかいなかったが、本来否定すること自体間違っているのだと思う。誰が見てもバカな恋愛でも、当人達は幸せなのかもしれない。窪美澄先生はこういう恋愛を否定することなく肯定することもない。このセリフは作者自身の思いを代弁しているかのようだと思った。

 

性におすすめな作品だと思うが少し生っぽい性描写が受け入れられるならば、男性にも読んでほしいと思える1冊だった。自分の恋愛が世間に否定されようと、その恋愛のせいで未来が薄暗くなってしまっても、しっかり前を向いて生きていこうと思える、そんな希望を与えてくれる1冊。