本の紹介
著者 窪美澄
角川文庫
発行 文庫.2024.1
本の感想
タイトルにもある通り、母になった由紀子の結婚から出産、そして新しい恋愛を書いた一冊。母だけでなく息子も旦那も恋愛をする。子を持つ母親由紀子、長男として生まれ母を支え弟たちを見守った智晴の物語。
窪美澄先生といえば、素晴らしい感情描写や人間の生々しい部分を鮮明に書く有名作家だ。普段目を逸らしてしまうような出来事にも、じっくりと焦点を当てるので胸が締め付けられる時も多々ある。
そして、1人の母親でもある。
そんな著者が母親として生きてきたからこそ書ける一冊だと思った。
由希子は初めての子育てで、右も左も分からない不安と闘いながら智晴を育てていく。そんな中、夫の仕事が消失。子育てと仕事の両立の難しさ、どこか他人行儀な夫。読んでるだけで胸が締め付けられる前半部分だった。
打って変わって後半の由希子、智晴は幸せのために今を精一杯生きていた。しかし、両親に起きた出来事と、母親がわりをすることによって、周りよりも少し早く大人になってしまった感が否めない。
母親を支えるとは言っても、智晴はもっと青春を謳歌したかったはず。実際、勉強も恋愛も周りより遅れてしまっていたし、両親や弟に対しても自分の意見を押し殺して生活するしかなかったという感じが苦しくなった。
智晴が周りより少し早く大人になった描写は、親友である大地とのやりとりでも分かる。大人びていて責任感が強い智晴、思春期で感情を抑えられない大地。もし大地が智晴と同じような境遇だったら、お互いの気持ちを汲み取ってもう少し穏便に解決できたかもしれない。
昨今、複雑な家庭環境というのはよく耳にするようになった。私が幼い頃より気持ち増えたのかな?という感覚。それだけ家族の形も変わってきているのかもしれない。
家族の形が変わっても、家族という枠組みは変わらず存在する。そこに何人増えようが、何人居なくなろうが家族。
今まで母親としての役目を全うしてきた由希子、母を支えてきた智晴がこれからも幸せな家族でありますようにと願いたくなった。