ななの日常茶飯事

読書好きの日記&読書記録

推し、燃ゆ【本の感想】

 

 

本の紹介

著者 宇佐見りん

河出書房新社

刊行 2020年9月

 

推しが炎上した。推し活をする一人の女性の話。

 

本の感想

しが炎上した。3次元の推し活をする人たちにとっては一度は経験するであろう話。私も学生の頃にバンドを追っかけてた時期があったのでとても共感できた。推しがいる人は共感、推しがいない人でも当人たちの気持ちが知れるいい作品だと思った。

物語はある出来事で推しが炎上してしまうところから始まる。主人公が推してる人は、アイドルの真幸くんという人物なので3次元の話になる。もちろん炎上するほどなので結構な人気がある人物なのだろうと分かる。話の最初で主人公が真幸くんを好きになったきっかけ、真幸くんの経歴などが語られるのでその後の展開をすんなり理解することができた。

最初こそ主人公は余裕そうに振る舞っていたが、真幸くんのグループの人気投票の結果を期に余裕がなくなり始めた。主人公は学生だが推しのために頑張ってバイトをしていた。すごい偉いと思うし、私もバイト代をバンドのチケットやグッズに費やしてた過去があるので共感できた。主人公はバイト先で色々ケチつけられてしまっていたが、あれは大人が悪いなぁと思った。社会経験もないひよっこの学生には仕事の臨機応変は難しい。しかもお酒の話になると余計。うざいなぁ、決められてるからそれは無理なんだよ、と心の中で叫びたくなる。

 

し活を「たかが」と思う人もたくさんいる。それは私たちの家族でもあり得る話だ。実際私もグッズを買って飾ったのを見て「意味ない無駄遣い」と言われたことがある。主人公の周りにもっと推し活に理解のある人がいれば変わっただろう。もっと推さなきゃ、私が推しのために頑張らなきゃと思い始めたら、行くところまで行ってしまうと思う。この本のすごい所は、主人公が推し活をする→その感情や行動を事細かく書くという一連の流れで本の90%が埋められているのに、綺麗に本が完成しているところだと思う。細かく言うと家族も描かれているんだけど、家族=推し活に理解がない人達という分かりやすい構図が出来上がっているのもいい。

 

主人公の家族が推し活も主人公の事も分かろうとしない酷い言い方があった。

上が主人公、下が父親

 

「働け、働けって。できないんだよ。病院で言われたの知らないの。あたし普通じゃないんだよ」

引用 推し、燃ゆ

91頁

 

「またそのせいにするんだ」

引用 推し、燃ゆ

92頁

主人公の父親をグーでパンチしてやりたい気分になった。「たかが精神的な病気」と思っている考えが古い親がどれだけ娘を苦しめているか分かる会話だ。しかも父親は海外に単身赴任していて、久しぶりに帰ってきて娘に言った言葉がこれ。ここに至るまでに確かに主人公にも色々あったとは思う。それを差し引いても酷い言葉だと思う。ここから主人公はさらに闇に深く足を踏み入れていく。

 

しが炎上した主人公の感情や行動の移り変わりを細かく書いた一冊。私も推しが不倫だったり解散だったりを経験しているのでとても共感できたし、一歩違えばこうなっていたかもしれないと思う恐怖があった。推し活をする全てのひとに読んでほしいし、そうでない人も推し活とはどんなことなのか、どういう心境なのかを知れて面白いと思う。ファンの多さは着火剤の多さなんだと思った。推しが薪、ファンが着火剤。そこに火種を入れて仕舞えばファンが多ければ多いほどよく燃えてしまう。しかも一度炎上すればまた違う火種が出てくる。

そして、宇佐見りん先生が表現する女性の体や心境がストレートなんだけれど、他の作家先生とは全く違くて生々しさがある。それは「かか」を読んだ時も思ったのだが、クセになるのでこの表現の仕方が好きな自分がいる。

今後も宇佐見りん先生の作品を読んでいきたくなる一冊だった。

 

2023.6.12読了