ななの日常茶飯事

読書好きの日記&読書記録

フーガはユーガ【本の感想】

 

本の紹介

著者 伊坂幸太郎

実業之日本社

刊行 2018年

 

本の感想

ーガはユーガという本のタイトルから、きっと双子の物語なのだろうと予想して手に取った1冊。本好きなら1度は耳にしたことがあるであろう伊坂幸太郎先生。以前から気になってはいたものの著者の作品は初めて読むので、期待とちょっぴりの不安を胸に読み始めた。伊坂幸太郎先生が書く作品は難しそう、という先入観は読み始めてすぐに払拭された。むしろ読みやすくてどんどんページが進んでいく。気がつけば1時間ほど夢中になって読んでいた。それくらい本書は面白くて、何より話の展開に無駄がなく早く次が気になって仕方なかった。

 

て、本書の感想を書いていこうと思う。先ほども述べた通り読みやすく、続きが気になる本だった。私が思っていた通り双子の兄弟風我と優我の物語だ。優我がファミレスで高杉という制作ディレクターに昔の話をしているところから物語は始まる。本書は高杉と優我の会話で物語が進行していく。優我と風我の小さい頃の話や2人に起こる不思議な現象の話を続けていく。

 

「二時間ずれて生まれてきた双子が、二時間置きに、瞬間移動を?」

37頁 フーガはユーガ (実業之日本社文庫)

 

そうこの2人起きる不思議な現象とは瞬間移動だった。毎年決まった日だけに起こる。しかも2時間置きと時間も決まっている。この現象を生かして2人が色々な体験をしていくのだけれど、それがとても面白い。2人の生活は父親の暴力もあり最低なものだった。しかしそんな酷い生活があるからこそ、瞬間移動という2人にとっての一種の希望のようなものが際立って見える。私はこういった現実離れしている作品を読むのは久しぶりなので、余計楽しかったのかもしれない。

物語の中盤に差し掛かると1年に1日だけとはいえ、2人とも瞬間移動について何度も実験を重ね理解してきたようだ。この2人は悪い意味で現実離れした家庭で育っているので妙に冷静で落ち着きがありすぎる場面も多々ある。半ば諦めの心があったのかもしれない。本書で登場する人物ははっきりと、強いものと弱いものに分かれている。もちろん主人公2人は弱い方に入るだろう。そして虐待をしている父親は強いものだ。他にもいじめっ子といじめられっ子も登場する。しかしそんな2人といじめられっ子のワタボコリ君が反撃に出るシーンも描かれている。暴力で解決はできればしたくないが、そんな事言ってられないくらいに追い詰められている人達だっている。

 

我と優我の経験や目的、高杉の正体、ラストに起きる衝撃の出来事とどれを取っても、面白いの一言で済ますには惜しい作品だった。もっともっと語りたいし、ネタバレを控えて語るというのはここまで難しいのかと思える作品。もう一度初めから読んでも夢中で最後まで読み終わってしまうだろう。冒頭にも書いた通り、伊坂幸太郎先生の作品を読むのは初めてだったが、次はどの作品を読もうかと考えてしまうくらいにはハマった。日本でも日常的に子供が家庭内暴力を振るわれているのは事実。その現実をしっかりと描きながら非現実な現象を足すことによって少しの希望を見出している。大人にも勧めたいが未成年の方達にも刺さる一冊なのではないだろうか。