本の紹介
著者 梨木香歩
新潮社
刊行 2001年
本の感想
この本は今年の新潮文庫の100冊から選んで購入した。青空文庫を除けば、私が読んだ作品の中で一番古い作品だと思う。「西の魔女が死んだ」悲しいタイトルだが、同時に魔女という心が踊る言葉も入っている。魔法使いや魔女になりたいと思った人は少なからずいると思う。私もその1人だ。本書は中学に入って学校に行けなくなってしまった主人公「まい」と西の魔女であるまいのおばあちゃんのお話。タイトルから悲しい物語だと思っていたが、成長と発見そして希望が見える物語だった。
まいはおばあちゃんとの暮らしをしていく中で、魔女の修行を行っていく。魔女と言っても箒で空を飛んでニシンのパイを届けたり、杖を振って物を浮かせたりするそれらとは違う。もっと現実的な部分である精神力や知識をつけ、数多の情報から自分を守るすべを学んでいく。まいはおばあちゃんと暮らしていくことになった日から少しずつ成長していく。それは読んでいる私にも気づかないくらい些細なことから。気づいたらできるようになっていたし、そう誘導したおばあちゃんも凄いと思った。
これは一読者である私が感じた事なのだけれど、まいの両親はとても現実的だと思った。まいのことも現実的な人間として育て上げたいという思いがひしひしと伝わってきた。おばあちゃんが古い考えの人だと思っているみたいだし、あまりおばあちゃんのことを分かっていないような気がした。しかしそれはおばあちゃんが日本人ではないから、という先入観から来ているものなのではないだろうか。まいのお父さんが亡くなった日本人のおじいちゃんの事は好きだったり、お母さんがおばあちゃんの考えを否定してしまったり。外国の人だから、という所で線を引いてそれ以上踏み込まずに勝手に思い込みをしている感じがした。時代の流れはあれど、それを盾にして文化の違いを分ろうとせず否定しているような感じもした。
まいの意見を否定する事なく新しい知識を与えたり、言葉通りの無性の愛を与えたおばあちゃんが好きになった。確かな情報もないのに悪い方向に決めつけてしまう時は、しっかりと叱ってあるべき考え方に導いてあげたりと、先輩魔女としてのまいに対する向き合い方が良かった。ダメなものは理由をつけて説明して、しっかりと子供の声にも耳を傾けて一緒に議論する。書いてみると簡単かもしれないけど、実際にできていない人も多いのではないだろうか。それをしっかりできるおばあちゃんは魔女としても人としても尊敬に値する方なんだと思った。