ななの日常茶飯事

読書好きの日記&読書記録

砂漠【本の感想】

 

 

本の紹介

著者 伊坂幸太郎

刊行 2010

新潮社

初版発行は1972年。2005年実業之日本社によりハードカバー版、2010年新潮社より文庫版が出版されている。私が読んだものは新潮文庫のものなので上記の刊行で記す。

 

本の感想

坂幸太郎先生の作品は2作目。Twitterでおすすめを聞いたところ、親切な方がこの本を勧めてくれた。結論から言うととても良かった。主人公を含め個性豊かな5人の同級生の大学生活を追体験しているような気持ちになった。

日常生活に非日常な現象を取り入れて、物語をより一層深く面白くする。前回著者の作品を読んだ際に私が書いた感想なのだが、やはり今回も超能力が登場した。5人の仲間の1人である南さん。おとなしめで優しい口調で話す、そしてちょっとだけ物を動かすことができる。こう書くと南さんばかり目がいってしまいそうだが、残りの4人もなかなか個性が爆発している。主人公北村が一番個性がない一般人に見えてしまうが、だからこそ冷静に物語を語ることができたのかもしれない。それくらい濃い4年間だった。欲を言えば社会人になった彼らの物語も読みたいくらいだ。

 

れは私だけではないかもしれないが、登場人物に西嶋と言う男性がいる。彼も5人の仲間の1人。私はこの西嶋がとても好きになった。彼は登場時からいわゆる「おかしな奴」だった。みんなの前で説教を唱えたり、空気を読めなかったり。しかしその言動は私たちが普段心の中で思っているが、口に出したら嫌な顔されるようなことなのだ。思ったことを全部口に出してしまうと言う感じ。本書で一番重要であろう西嶋のセリフがある。

「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」

18頁 砂漠 (新潮文庫)

 

西嶋のセリフはほぼ全てが名言のような感じがするのでこのセリフだけ紹介する。このセリフは、普段私たちが現実的に考えて無理だろうと思っていることは、実際に本気で取り組めば出来るのに、理性的になりすぎて挑戦すらしないだけ、と言う意味なのではないだろうか。例えばめちゃくちゃ不器用な人がいたとする、その人がパティシエになりたいと思うが不器用さを知っている周りの人や自分が、「普通に考えて無理」でしょと言い挑戦すらしない。実際のところ器用不器用は一番重要なところではなく、本気で挑戦すれば誰だってパティシエになれる。私たちはその挑戦を「普通に考えたら無理」と思い込んで挑戦すらしない。しかし私たちは「あれになりたい、ああだったらいいな」などの願望ばかり掲げていて、実際挑戦する人の方が少ないだろう。本書を通して西嶋は挑戦する姿勢を崩さなかった。誰が理性的な考えを示しても、上記セリフのように少しの可能性があれば無謀なことでも挑戦するスタイルだった。彼のセリフが心に刺さった人は多いのではないだろうか。いわば心の中の代弁者のようなものだ。

 

西嶋のことで小一時間は語れてしまいそうなので、この辺にして本書の内容に触れることにする。最初に述べたとおり本書は、主人公北村の大学生活の周りで起きた物語。もちろん幸せなことばかりではない。少し読み進めたところで衝撃的な事件が起きる。それは北村たちの大学生活を大きく変えるきっかけになる。5人ともそれぞれ違った方向に尖っているため読んでいて退屈しないのがいい。本書は春夏秋冬で構成されている。各季節の最後に、あんなこともあったなぁと思い出す場面があり、ここに書ききれないほどの思い出が北村にはあったようだ。その数行が物語をより深くしているなぁと感じた。本書に書かれている以外でも物語は進行していて、私が見ているのが全てではないと想像を膨らませることができた。数行で読者にそう思わせられるのは、著者の文章力が高いからだろう。

 

しぶりにここまで長い作品を読んだが、読み終わってみると本のページ数の割にさっぱり読めた。1冊に主人公たちの4年間が詰まっていて、私もこの人たちと大学生活を送ってみたかったなぁと思った。最初から西嶋が飛ばしまくるので、読んでいて飽きるってことはまずないだろう。5人がバラバラの性格だから上手くいったのかもしれない。仲間内で誰も誰を否定しないで、意見を尊重して生活できるというのは最高の仲間なのではないだろうか。私もこの広大な砂漠でまだ上手く歩くことはできないけれど、いつか自分なりのオアシスを築いて砂漠に飲まれないように生きていけたらと思える作品だった。