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わたしの美しい庭【本の感想】

 

 

本の紹介

著者 凪良ゆう

ポプラ社

刊行 2021年

 

本の感想

の本は私の大好きな本の1つで、今回は再読の感想となる。

幼い頃に両親を亡くした百音。それを引き取った百音の母親の元恋人統理。そのお隣さんの路有。縁切りマンションに住む3人の生活と、マンションの屋上にある小さな神社に来る人たちの物語。まず本書の素晴らしいところは、季節によって本の装丁が変わるところだろう。夏限定や秋限定で販売されたものもある。私が持っているものは初期の水色の表紙のもの。秋模様になった橙色の表紙も欲しくなってしまう。物語に出てくる美しい庭をテーマにしているのだろうか、煌びやかで平積みされていると一際目立つ。

 

丁に負けじと物語に出てくる屋上庭園も美しい。本書ではマンションの屋上に庭園付きの縁切り神社というものが出てくる。統理が宮司を務める神社。もちろん庭園の世話もしている。その庭園くらい綺麗な心を持っている百音。そこに頭がキレるゲイの路有が加わると、日常会話ですら美しい物に見えてくる。それぞれが3人が違う考えを持っていて、それを3人とも表に出して議論するのが本書の魅力の一つと言えるだろう。小学生の百音を置いてけぼりにしないで分かるよう説明する2人からは、百音への愛情が伝わってくるし、子供独自の純粋で真っ直ぐな回答をしていく百音を見ていると心が洗われていく感じがする。

統理の影響もあってか百音はとても頭がいい。大人では切り込みにくい話も、百音の純粋さと幼さでいい方向に向かう事が多い。大人顔負けのファッションセンスを持っているのも魅力的だ。大人組の話も面白くて、過去に路有と統理がゲイバーに行った時の話は、自然と口角が上がってしまうくらいに面白い。

本書では百音の疑問や考えに対して統理と路有が一緒に考える描写が多くある。その一つに私にも響く統理の言葉があった。

 

「間違ってない。百音の感情は百音だけのものだ。誰かにこう思いなさいと言われたら、まずはその人を疑ったほうがいい。どんなに素晴らしい主義主張も人の心を縛る権利はない」

292頁 わたしの美しい庭

 

百音に対する統理のセリフが今の3人を形成しているものなのだろうと思った。私も周りに影響を受けやすいし、仕事や親から主義主張を押し付けられてる人はたくさんいる。しかし実際は統理のような心持ちでいないと、自分自身の思いを見失ってしまうと思う。価値観の押し付けや考えを否定してくる人に出会ったら真っ先にこの言葉を思い出したい。そして、こういう考えの人が増えるといいなとも思った。

 

み進めていくたびに3人の日常の美しさが増していく。百音に対する2人の愛情や、百音が2人や知り合いに向ける純粋な優しさが読んでいて心地いい。私たちが普段から感じている世の中の息苦しさや不条理さ、それをストレートに話し合う3人は世の代弁者のようなものだと思った。3人が違う価値観を持っているからこそ話し合えるのだと思う。たまにある百音企画のイベント、路有の組み合わせがめちゃくちゃな朝ごはん、統理の大切にしている縁切り神社や庭のどれもが一緒に経験してみたくなる内容だった。この3人が身近にいたら私の心の庭の花も美しく開くだろう。