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私は女になりたい【本の感想】

 

 

本の紹介

著者 窪美澄

講談社

発行 2023年

 

本の感想

書を手に取って最初に思ったのは、なんてストレートなタイトルだろうだった。「私は女になりたい」これだけ見れば、主人公は女性になりたい男なのではないかと思う人もいるはずだ。実際は違う。主人公赤澤奈美は47歳、美容皮膚科医の女性だ。夫と別れ1人息子の玲を大学に通わせながらクリニックで働いている。そんな奈美が1人の男性と出会い、自分の人生を変えようとする物語である。

 

イトルにもなっている「女」という書き方。それは決して生物学上での女性を表す物ではない。窪美澄先生が書く女というのは、男性に求められて恋に貪欲な女性のことを指すのではないかと私は思った。物語序盤は奈美の今の生活やクリニックの事が書かれている。過去に別れた夫との関係やクリニックの出資者佐藤直也との関係などが、とても細かく現実的に描かれている。それもあってか物語に入り込みやすいスタートになっている。

 

リニックの仕事や私生活が忙しい中1人の男性に出会う。それがクリニックの’元’患者、業平公平である。彼との出会いで奈美は「女」になることを決意する。2人はかなりの年の差があった。しかし、惹かれ合う2人にそんな小さなことは関係なかった。公平は歳なんて気にしていないし、美容皮膚科医の奈美は周りの女性と比べると容姿は若かったのだろう。

そんな幸せな2人を見ていて私は少しの違和感を感じていた。公平は少し子供っぽいのではないか、奈美は母性本能から公平と付き合ったのではないかという思いが浮かんだ。もちろん2人は大人の恋愛をしているつもりなのだろう。物語としても恋愛をして「女」になっていく奈美を書いているのだろうと思う。しかしこの違和感は、作者自身がわざと作り出したものなのではないだろうか。本書のタイトルは「私は女になりたい」だ、なると断言したわけではない。本書は長い間母親と1人の女性を経験してきた奈美の「女」になりきれない生活を描いたものなのではないかと思った。

 

物語をどう捉えるかは人それぞれだ。作者自身もわざと謎を残す場合がある。本書は純粋な恋愛小説ではない。どちらかというと大人の都合が盛り盛りの恋愛が描かれている。最後の数ページを読んでも、前述した私の考えは揺るがなかった。真相は作者自身しか分からないが、奈美は「女になりたい」という気持ちを持った1人の女性なのではないだろうか。決して女には成りきれずに、どこかで母性や理性が出てきてしまう感じが見受けられた。公平に対する奈美の態度がそう思わせてくる。

 

者の作品でここまでストレートなタイトルは読んだことがない。実際に読んでみると、いつもの窪美澄先生の作品だなぁと思うのだが、どこか引っかかるのは私だけではないはず。著者の作品を何冊か読んだことがある人なら、私と同じ思いを感じる人もいるかもしれない。本書に関しては読んだ人と意見交換がしたくなる内容だった。まだまだ知らない窪美澄ワールドがあると思うとワクワクする。男女問わずぜひ解説まで読んでほしい一冊だと思った。