ななの日常茶飯事

読書好きの日記&読書記録

さよなら、ニルヴァーナ【本の感想】

 

 

本の紹介

著者 窪美澄

文藝春秋

刊行 2018年

 

本の感想

年Aという人物を知ってる人はどれくらいいるだろう。神戸連続児童殺傷事件を起こした当人。私はこの本を読み途中で事件の事を調べるまでは事件の詳しい内容は知らなかったが、少年Aという呼称はかつて世間を騒がせたため知っていた。

本書はそんな少年Aと事件、被害者の家族、そして少年Aに恋をしてしまった人たちの物語である。10の章からなりそれぞれの主人公の視点や時間軸で物語が進行していく。本書はこの事件以外にも同時期に発生した事件と災害をテーマにしている。ある宗教団体が起こした事件と関西を襲った地震。私が当時生まれてすぐか生まれる前の出来事。

 

語の中に出てくる小説家志望の女性。その女性は長年小説教室に通い新人賞を目指していたが、ある出来事で実家に帰り二世帯住宅の母と妹夫婦の家政婦的な存在として暮らしていく。この妹夫婦が憎たらしいくらいに酷い。本の中に手を突っ込んでパンチしたいくらいにはイライラする夫婦だった。しかし、そんな夫婦が日本には溢れているし、子供の世話や家のことを家族の誰かに押し付ける人はたくさんいる。実際働いているから家の事は妻がやって当たり前と思っている夫も少なくはないし、家の事やってるんだから文句言わず働けと思っている妻もいるだろう。夢を追う一人が幸せなのか、そういう思いを胸に秘めている夫婦が幸せなのか。家政婦というより奴隷のような生活の彼女は本当にキツイだろうなと思った。

 

害者家族の母であるなっちゃん。少年Aに恋して追いかけている莢ちゃん。序盤はそれぞれの不幸や今の気持ちが語られる。終盤に差し掛かると、少年Aの聖地巡礼をしていた莢ちゃんと、一度でいいから少年Aの現在を確認したいと思って旅行に来ていたなっちゃんが出会ってしまう。それからはトントン拍子であってはならない方向に物事が進んでいってしまう。終盤莢ちゃんがなっちゃんの家に訪れる機会があった。そこでなっちゃんの優しさ、家族の心の辛さがピークに達して私も泣きそうになってしまった。母の強さ、優しさが色濃く現れている内容だった。

 

際に起きた事件、災害をフィクション小説として綴った一冊。それは私の思っているよりも残酷で悲しいものだった。小説として世に出てきたものがここまでの衝撃を与えるなら、実際の事件に関わった人達の気持ちなど計り知れないものだろう。私の生まれる前後に起きた事を調べるきっかけをくれたので読んで良かった。ラストは誰が不幸にならずにこれからの人生を歩んでいけるのだろうか。普通の生活からかけ離れてしまった人はどんな思いで生きていけばいいのか。それを強く考えさせられる作品だった。