ななの日常茶飯事

読書好きの日記&読書記録

やがて海へと届く【本の感想】

 

 

本の紹介

著者 彩瀬まる

講談社文庫

発行 2019年

 

本の感想

書は2011年3月11日に起きた東日本大震災をテーマにした物語である。結構踏み込んだ話なので、津波地震の描写が苦手な人は以下の感想を読む際は心に余裕を持ってから読んでほしい。

本書は主人公真奈に対して、3年前の大震災以降行方がわからなくなっているすみれと同棲中だった遠野が「形見分けをしたい」と提案するところから始まる。真奈はすみれと親友の仲で、少しの間一緒に住んでいたこともあった。真奈はすみれのことを忘れられずに日常を過ごして行く。

 

数章の「私」は真奈の現在を書かれたものになっている。偶数章の「私」は震災による津波によって流されてしまった人たちの魂が描かれている。東日本大震災以降この出来事を題材にした本はたくさん発売されてきただろう。私が今まで読んだ本の中にも、「東北で起きた地震」など濁して出てくることが多々あった。しかし本書は一歩踏み込んだ内容になっている。

2023年現在震災による行方不明者は2523人という調べが出ている。帰ってこない人を待つ辛さというのは想像を絶するものだろう。私は本書を読み進めて行くたびに、心が締め付けられる思いでいっぱいになった。読んでいてここまで辛いものは初めてだ。物語は中盤、魂の「私」がひたすら歩き続けていると黒い水が押し寄せてくるシーンがあった。そこで「私」が以下のようなセリフを残した。

 

だめだ、死ねない。離れたくない。守られていた、すべてのものから引き剥がされた。死ねない。死ねない。だって、だって----。

136頁 やがて海へと届く (講談社文庫)

 

私はこの文を読んで心が締め付けられた。大切な人を迎えに行く最中、荷物を抱えて山を目指していた人、家の中に居て外で何が起こっているかわからなかった人、数えきれない大切な命が一瞬で黒い水に飲まれていく様は想像しただけで心臓が締め付けられる。

 

書を通じて改めて津波の恐ろしさを知った。正直言うと、読み進めて行くたびに苦しくなり辛い気持ちが募っていったので読んでいてきつい章もあったが、読後は読んで良かったと思える内容だった。ふらっと旅行に出たまま大切な人の元へ帰れなくなったすみれの事を思うと、胸が締め付けられる思いだ。忘れないことも大事だが、前を向いて一歩踏みだす勇気も大切なことだと教えてくれる内容だった。