ななの日常茶飯事

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透明な夜の香り【本の感想】

 

本の紹介

著者 千早茜

集英社

刊行 2020年

 

本の感想

りを作る「調香師」とそこで働くことになった主人公の女性の話。本を読む前に装丁がとても綺麗で気に入った。読んだ後に見ても物語のシーンが浮かんでくるような装丁だった。千早茜先生といえば直木賞を受賞した女性作家だ。世間ではそういった見方をされているかもしれないが私は少し違う。著者のTwitterをフォローしているのだが、毎日美味しそうなお茶やお茶菓子、手料理などの写真を載せている。私の中で千早茜先生は好きなものに全力な作家に見える。本書を読んでいて何度も料理のシーンやお茶を淹れるシーンが出てくる。普段から著者の載せているお茶や料理の写真を見ているからか、主人公は著者自身なのでは?と思ってしまうくらい簡単にイメージができた。

本書は人並外れた嗅覚を持った調香師の朔と、その屋敷の家政婦のようなものとして働くことになった一香のお話。一香は家政婦なので料理や掃除をする。先ほど述べた通り、料理やお茶のシーンが多く描かれているのだが、それが本当に細かく描写されている。著者の料理好きお茶好きが見てとれるくらい。多く描かれているがしつこさを感じないのは、細かく書かれているからこそ、その光景や美味しそうな完成品を想像しやすいからかもしれない。

料理の話はここまでにして、本書にお客さんとして出てくる人物はそれぞれ秘密を抱えている。朔が作るのは普通の香りではなくて、お客さんのオーダーメイドの香りでどんな香りでも作り出すことができる。もちろんお店も秘密裏にやっていて新城という朔の幼なじみで興信所を営んでいる男が連れてくる。秘密裏にどんな香りでも作り出せるなんて、誰が聞いても一度は足を運んでみたくなるだろう。

 

「香りは脳の海馬に直接届いて、永遠に記憶されるから」

55頁 透明な夜の香り (集英社文庫)

 

書でとても重要なセリフの一つ。確かに私も嫌いな匂いだってあるしそれを覚えている。料理をするとき匂いで判断する人もいるだろう。そして永遠に記憶されるというのは、普通の人間ならまだいいけれど、異常な嗅覚を持っている朔からしたらいいことだけではないだろう。朔はその人の感情を嗅ぎ分けることができる。言葉に出さないことも分かってしまうというのは辛いだろうと思う。一香も秘密を抱えて生きているのは冒頭でわかったのだが、それが結構重くて私なら塞ぎ込んでしまいそうな秘密だった。

 

香り」は私たちの生活の一部であることは間違いない。私自身も香りを発しているし、着ている服も食べているものも香りがある。忘れられない香りがある人だっているだろう。それゆえ物語に入り込むのは容易だったし、いい意味で今まで以上に自分の香りには気を配ろうとも思えた。それに著者のお茶や料理好きが本書に反映されていてなんだか嬉しい気持ちにもなった。今後も著者の本を読もうと思える作品だった。