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播磨国妖綺譚 あきつ鬼の記【本の感想】

 

 

本の紹介

著者 上田早夕里

文藝春秋

発行 2023年

 

本の感想

つて人と妖が共に暮らした時代があった。本書はかの有名な法師陰陽師蘆屋道満を祖に持つ兄弟の話。兄の律秀は優れた陰陽師であり、医術の才を持つ。弟の呂秀は妖が見える優れた眼を持ち兄をサポートする。法師陰陽師として播磨国で暮らす優しき2人の物語。

陰陽師と聞くと、妖との逸話や星詠み、人間のごたごたに巻き込まれる話を想像する人が多いと思う。あくまで本書は兄弟2人がどう生きているかに焦点を当てて書かれている。そうする事によってより現実的に読めるのが素晴らしい点だと思った。安倍晴明が正義で、蘆屋道満が極悪人!と書かれていない点も嬉しいポイントだった。

 

は妖が全く視えないが陰陽師としては一流という設定が面白い。

全く視えないのに優れた陰陽術の持ち主なので、妖に対する結界や呪文が凄まじく、そのギャップが面白い。対して弟は視えるからと言って優れた技の持ち主かと言われるとそうでもない。まさに兄弟2人で1人の陰陽師なのだ。

物語は、題にもある「あきつ鬼」を式神に迎えるところから始まるのだが、その鬼と呂秀の絡みが良い。あきつ鬼は人間より優しい心の持ち主なのでは?と思ってしまうほど優しくて、第四話 白狗山彦 ではあきつ鬼の自己犠牲の判断に感動してしまった。

知っている人もいるかもしれない妖怪 鰐鮫。第五話で出てくる海人の鰐鮫は人なのだろうか?と事前知識が少しある人はより一層楽しめる内容となっている。

 

陽師の日常なのに、ほのぼのとした時が流れている本書。出てくる妖も人の前に出る理由がちゃんとあって、それをきちんと聞いて対処する2人がとても心強い。兄弟のお互いを想う絆も、周りの人との関係も優しさに溢れている。蘆屋道満の末裔とはいえ、どこかの誰かの日常が好きな人はハマるに違いない。

陰陽師蟲師が好きな私にとってこの物語は直球ど真ん中だった。続きが出版されている様なのでそちらも読みたいと思う。