本の紹介
著者 芦沢央
2023.11
本の感想
私生活や仕事でのちょっとした失敗や選択が恐怖に変わっていくミステリ。日常生活に関わる話だからこそ、少しずつ近づいてくる恐怖に飲まれそうになる。短編集。それぞれが独立した短い話なので読みやすい。
本書の中でも私が一番気に入った話は「埋め合わせ」だ。この話は夏休みに教師がプールの水を排水してしまい、それをどうやって隠蔽していくかを書いたもの。いつかのニュースで聞いたことがある話だ。水は足せばいい。しかしその足した分の水道代はどうやって言い訳を作るのか。主人公はどうにか対処しようと奮闘するが、そこに思いもよらぬ人物が登場する。
この話の面白いところは、失敗をした人同士が出会ってしまうところだ。失敗した同士で庇い合うのか、自分だけ挽回しようと企むのか。刻一刻とタイムリミットが迫る中で、教師という失敗があまり許されない人物たちはどのような選択をするのか。間違った選択の入り口から出口までを短い物語の中に凝縮したような内容で、最後までスピード感のある読み心地だった。
仕事のミスや人間関係の拗れは誰にでもある。しかし、その対処は千差万別で、適切に対処しないとその人の今後の人生に関わる重大なミスになってしまうかもしれない。そこで少しの誤魔化しや嘘を使いうまく切り抜けるのか、それとも正直になるべく迅速に失敗を認めて謝罪をするのか。人は誰しも前者を考えたことがあると思う。私もそうだ。しかし、たった数分の間にも失敗は良くなるどころか悪くなっていくものが多い。どれだけ速く後者を選び、自分の心にゴーサインを出せるかが重要だと思う。それでも誤魔化したくなってしまうのは、世の中前者の選択が得をすることがそれなりに多いからだろう。
少し間違えば後に戻れなくなってしまう日常生活に忍び寄る失敗や恐怖、それはどんなホラーよりも怖いものなのかもしれない。
2023.12