本の紹介
著者 綿矢りさ
刊行 2012
本の感想
中学時代の同級生への片想い以外は恋愛経験がない主人公ヨシカ。大人になったヨシカは中学時代の片思いの相手「イチ」と最近告白された「ニ」の間で心が揺れていた。本書はいい意味で気持ち悪いくらいにヨシカの心の声が書かれている。本書の7割がヨシカの妄想や心の声だ。
私には彼氏が二人いて、どうせこんな状況は長く続かないから存分に楽しむつもりだった。
12頁 勝手にふるえてろ (文春文庫)
え?ヨシカって二人彼氏がいる浮気女なんだ。と言う感じで始まる物語。しかし読み進めていくと、次第にこの言葉の意味が浮き彫りになってくる。先ほど気持ち悪いくらいにと書いたが、読んでいて気持ち悪さを感じない人はいないと思う。それは、いわゆるオタクであるヨシカの妄想の他にも、ニの寒い自分語りなど。とにかくいやらしさが全くない気持ち悪さが、最初から最後まで続く。正直ヨシカの恋愛感情や妄想は行き過ぎなところがあるけれど、少し親近感がわく場面もあった。特にニに対しての心の声が全くその通りだと思った。男性の自分語りほど聞いていて気持ち悪いものはないと思う。特に仕事の自慢を聞きたい女性はいないのではないだろうか。しかしそれを胸を張って話してくる男性がいるのも事実。心底どうでもいい。そんなことより今朝の朝食の話をしていた方がいいわと思う。
本書は綺麗な恋愛の話とは程遠い、現実にあるなんとなくの恋愛を描いた一冊だと思う。なんとなくこの人と結婚して、子供を産んで育てる。そしてなんとなく生活を送る。誰しもが大好きな人と結婚して生活するわけではない。好きという気持ちに、金銭的なものや将来性を付け加えて結婚する。好きの部分より後者に重きを置く人がほとんどだろう。生活して子供を育てるにはそれが正解なのだろう。むしろ好きだけで結婚して子供もできたが、育てられない人もたくさんいるだろう。どこかで妥協が必要なのだ。その過程を生々しく書いたのが本書だと思った。正直ヨシカも痛い部分があると思う。少し拗らせすぎて妥協するしか無かったのかもしれない。それでももっと幸せな選択肢があったのではないかと思うラストだった。